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仔犬に大事な4つのこと

「仔犬に大事な4つのこと」と題した資料を仲間と作成した。
仔犬の社会化の重要性は僕たちの間では自明のこと。
一般の飼主さんの多くはことの重要さに気づかないことが多い。

甘噛みやトイレの失敗やものをかじることが一大事なのはわかる。
しかし、将来のために必要なことは別にある。
最小限やっておくべき4つのことをまとめたのが上記の資料。
P.I.G.のホームページから取得できる。

今回はその解説をご紹介する。
資料は動物病院で配布していただくことを目的としている。
そのため獣医師に納得していただける説明が必要だ。
以下にその解説の内容を紹介する。
解説はいくつかの文献をまとめたものなので最後に紹介する。


1)社会化の重要性

① 社会化期にすべきことと避けること
社会化期前半(生後3週~8週)は、母犬や同胎犬への社会化、
すなわち犬であるということや犬同士のコミュニケーション、
ルール、噛みの抑制、感情の抑制を学ぶ。
後半(生後6~12週)は、周辺環境や他の動物への社会化が促進される
と言われ、人との接触の仕方や人間社会での適切な行動はこの時期に学ぶ。
人への社会化は生後12週齢以降になると困難だと言われている。(※3)

生後8~10週齢頃(特に8週齢)は、仔犬にとって最も精神的に敏感な時期
と言われ、肉体的・精神的な傷を被ると回避反応が最も生じやすく、
次第に新奇刺激を避けようとする行動が現れる。

この頃の恐怖体験は生涯にわたり記憶に残りやすい。(※4,5)
つまり、仔犬期に受けた強い刺激は消えにくいことから
“怖い”経験はさせないことが重要だと言える。

② 社会化期後の警戒心
生後4~6ヶ月齢頃から一時的に恐怖に対する感受性が高まり、
テリトリー意識が発達し、それにより吠えなどの攻撃行動が
見られるようになる。(※6)

今まで平気だったものや気にしなかったものを怖く感じたり
警戒したりするようになる。
社会化期を過ぎても“継続した社会化”が必要である。


2)脳の成長

仔犬期の社会環境が脳中枢の発達に大きな影響を与える。
この過程で神経細胞の発達は増加から減少へ転向し、
中枢神経系における必要な経路を保存し不必要なものを委縮させるという、
成長後の行動形質獲得に必須の過程を経る。(※7)

つまり、適切な時期に適切な経験をさせることで、
適切な神経回路をつなぐことができ、経験させることなく
回路がつなげなかったものは消失してしまう。(★2)

(★2)子猫の目の実験(D.H.ヒューベルとT.N.ヴィーゼルの研究)では、
生まれたばかりの子猫のまぶたを縫合し、数か月後に抜糸をした結果、
目に映ったものが何であるかを認識する機能を失っていた。
実験期間中、視覚刺激を全く与えられなかったため、
脳の視覚野は発達できなかったのだ。
その後、この認知機能は二度と回復しなかった。
このことから、機能を獲得するには、そのための適切な時期がある
と考えられた。(※8)


3)発育初期にすべきこと

① 身体を触る
幼児期(生後2日~4、5週まで)に軽くて短い身体的ストレス(★3)を与える
ことで、将来受けるストレスへの耐性がつき、感情反応も穏やかで、
ストレスに対して「強弱をつけて」反応する。
また、脳の反応にも影響を与え、問題を解決する速度が早くなる。(※9,10)

人との接触(グルーミング等(★4))を通じて、
良好な絆や社会的愛情が生まれ、
なでられたり褒められたりすることを楽しみ、
心拍数も著しく減少する。(※11)

(★3)これを行なう目的は、神経組織が活動し始める時期を早めることにある。
それによって脳の反応力が高まり、成長後の行動に違いが出る。
感情面、知能面でもプラス効果があり、子犬の成長も早くなる。(※12)

例)短時間狭い空間に入れる、冷たい物を体に当てる、様々な足場の上を歩く、
回転させる、体を指でさするなど。強く長い刺激は逆効果となる。

(★4)ラットの実験によると、グルーミング行動が多い母ラットに
育てられた子ラットは、少ない母ラットに育てられた子ラットに比べ、
成長後のストレス反応や不安行動が低下するという結果が出ている。
(※13,14,15)

② 豊かな環境で育てる
豊かな環境として好ましいのは、多種多様な場所と物があり、
珍しくて刺激的な経験ができ、そこで新しいものを学び、
問題を解決し自由に探索し、あれこれ試し、
物や場所と触れ合えることである(★5)。(※16)

(★5) 例)ときどき状況が変わる障害物や迷路、食べ物探しなど
豊かな環境で育てることにより、脳の発育が促され、
問題解決能力や学習能力が高まり、感情的に落ち着き、
状況に対してストレスから立ち直るのも早かった。
また、豊かな環境には、知的な刺激と社会的接触の両方が必要で、
もっとも重要なのは、学習と問題解決の機会を与えることである(※17)

子豚の実験では、退屈な環境で育てられた子豚は、刺激が乏しいために、
夜中も異常に活動的になり、人に対する刺激の欲求も増加した。
これは「探索」システム(★6)が異常に活発になるからではないか
と考えられる。(※18)
刺激の決乏は仔犬の人への激しい甘噛みにつながるのではないかと考えられる。

(★6)自分の身の回りを探検し、調べ、理解したいという基本的な衝動
:パンクセップ博士(※19)


4)家庭でやってほしいこと

① あらゆるモノの印象を良くする(感情の貯金)
『感情の貯金』とは「刺激に馴らす(馴化)」だけでなく、
「刺激」と「おいしい食べ物」を関連づけ(古典的条件付け)、
「刺激の印象をあらかじめ良くしておくこと」で、
≪あれは何だろう?→平気→好き!→大好き!≫と印象を変えていく。

それにより万が一、印象が悪化した場合でも軽く済み、リカバリーも早い。
また、第一印象を良くすることはとても大事で、
その刺激の印象を決定づけるほどの効果がある。
  
② 守る行動を強化しない
本能的な行動(生得的行動)は経験を繰り返すことで強化される。
犬が物を守ることは「本能」であり、日常生活で犬が口から物を奪われる経験を
繰り返すことで「守る行動(くわえて逃げる、飲み込む、うなる、咬むなど)」
が強くなる。

また、仔犬期は様々なものを口で確認する。
その際の“飼主の過剰な反応(大騒ぎなど)”は仔犬の行動を強化させる
可能性があるため禁物である。

本能にかかわる学習の基本は『悪い行動をさせない管理』と
『良い行動の強化』である。
つまり、危険なものをくわえる状況を極力排除した上で、人が奪うのではなく、
人に渡す(まずは食べ物と交換する)ように教えることが重要である。

③ 自立心を養う(分離不安の防止)
「飼主は戻ってくること」と「この場所でひとりでいることは平気」だ
と学習させることが大事である。
これを学習させる前に、長時間の留守番を経験させ続けることで、
犬の不安は増していき、ひとりで留守番ができない犬になる可能性が高まる。
飼主の外出は「別れ」ではなく、
「戻る」ことを期待させるように学習の手順を踏むことが必要。(※20)

④ ガマン(抑制)を好きにする   
社会で暮らす上でガマン(抑制)はかかせない。犬に生活のルールを伝え、
それを守ることでお互いが快適な生活を送ることができる。
ガマン(抑制)を伝える上での注意点は、無理やりではなく
犬が喜んで受け入れたい!と思う方法で伝えることである。


※3 『理想の犬の育て方』スタンレー・コレン著 木村博江訳 文春文庫 P.189-196
※4 『フォックス博士のスーパードッグの育て方 イヌの心理学』マイケル・フォックス著 北垣憲仁訳 白揚社 P.144
※5 『犬と猫の行動学 基礎から臨床へ』内田佳子・菊水健史著犬と猫の行動学 学窓社 P.14
※6 『犬と猫の行動学 基礎から臨床へ』内田佳子・菊水健史著犬と猫の行動学 学窓社 P.15
※7 『犬と猫の行動学 基礎から臨床へ』内田佳子・菊水健史著 学窓社 P.12
※8 『赤ちゃんと脳科学』小西行郎著 集英社新書 P.42
※9 『理想の犬の育て方』 スタンレー・コレン著 木村博江訳 文春文庫 P.173-174  P.180-181
※10『犬も平気でうそをつく?』 スタンレー・コレン著 木村博江訳 文春文庫 P.187
※11『フォックス博士のスーパードッグの育て方 イヌの心理学』マイケル・フォックス著 北垣憲仁訳 白揚社 P.136-139 
※12『理想の犬の育て方』 スタンレー・コレン著 木村博江訳 文春文庫 P.181
※13『犬と猫の行動学 基礎から臨床へ』内田佳子・菊水健史著 学窓社 P.27
※14「リード装着時の吠え回数」の実験Scott&Fuller(1965)より
※15「人への接近スコア」の実験Freedman et al.(1960)より
※16『理想の犬の育て方』 スタンレー・コレン著 木村博江訳 文春文庫 P.220
※17『理想の犬の育て方』 スタンレー・コレン著 木村博江訳 文春文庫P.206-217
※18『動物が幸せを感じるとき』テンプル・グランディン著 中尾ゆかり訳 NHK出版 P.21-26
※19『動物が幸せを感じるとき』テンプル・グランディン著 中尾ゆかり訳 NHK出版 P.16
※20『犬はあなたをこう見ている』ジョン・ブラッドショー著 西田美緒子訳 

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